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John Maynard Keynes |
このアベノミクスに対する批判のひとつに「インフレになっても給与が上がらなければ消費は冷え込むし、結果としてこの政策は失敗する」というのがありますが、つい先ほどセブン&アイが組合の要求満額回答でベースアップを妥協したそうで、アベさんもすこしほっとしているところでしょう。
高校の政治経済を履修しただけレベルの門外漢の私がこんなことを書くのは恥ずかしいことですが、この経済政策について素人考えをまとめてみたいとおもいます。皆様の鋭い突っ込みをお願いしたいところです。
インフレをモノの値段で見る
インフレというのは、モノの値段が上がることですよね。100円だったものが2%なら102円になる。10年間2%が続けば1.02の10乗ですから122円になるわけです。労働者・消費者の立場から見ればこれでは生きていけない人が出てくるわけで、給与も10年で少なくとも20%上げてもらわなければ、生活は厳しくなるばかりです。そこで、先に述べた批判が出てくるということになる。値段というのは物を交換するときのレートに過ぎないわけで、100円のものが120円になったからといって20%何かついてくるわけではない。カロリーが20%多いとか、必須アミノ酸20%増量とかいうことではないわけです。ってことは、これは経済の仕組みの中でのレートをいじるということだけなわけ。給与がちゃんとインフレとともに上がるのならそれはそれで今より悪くなる要素はないとも言えます。
ただ、すこしづつでも給与が上がっていくのなら、それは実感しやすい現象です。インフレのせいで実質的な給与が上がっていなくても、金額が上がっていれば豊かになったような気がするわけです。そして消費するということが起きやすくなる。人の心理を突いてませんか?
モノを売る人たちのインフレ
一方、消費者にモノを売る人たちの視点でも考えてみましょう。消費者がモノを選択するときには、機能やデザイン、好みなどももちろん考えますが、生活の厳しい人ほど値段で悩みますよね。安くてまあまあのモノと、高くていいモノがあるときに、あまりお金を持っていない人は安いほうを選ぶ。そんなわけで、インフレが起きていても安いモノが売れることには変わりがないわけで、モノを売る人たちはインフレを乗り越える十字架を背負うことになります。安売り競争を続けていけば、いずれは経営が悪化してしまう。だって、原材料費や設備の値段は上がっているのに安売り競争すれば、圧縮するのは設備投資、賃金になってしまうのですから。そうすると、インフレそのものが成り立たないし、経済が良くならない。そこで、新しいサービスや商品を開発して、すこし高い値段をつける。新しい機能や性能をつけるといった企業努力が必要になるわけです。ここは競争の世界ですから、そういったインフレ社会に対応した商品を開発できる企業が生き残れるようになる。もしここで、コストを圧縮することだけで乗り越えようとする企業が出てくると困ったことになります。インフレで圧縮できるのは残った人件費、下請け工賃、下請け部品代金くらいでしょうから、当然これまた前出の賃金アップの問題がネックになってくるわけですね。
正直言って、これまで飼いならされ徹底的に弱体化した労働組合の存在が、結局企業の力を弱めてしまったのではという気さえします。日本的な企業経営の時代、労働者はある種の運命共同体で家族でした。その人たちの生活を守るという意識が経営者の中にもあった。それが欧米型の成果主義でこういった経営思想は古い考えだとされ、株式を中心とした株主利益第一の会社が増え、労働者は交換可能な部品のひとつになり果てたのです。経営者と労働者が一見いがみ合いながらも実は仲良しであるという時代もあったのですね。いまはそういうことさえもが建前になってしまっている。
お金持ちにとってのインフレ
私にお金持ちのことは分かりません。ない頭を絞って考えると、少なくともインフレ下では現金・預金を持っていることは損でしょうね。さっき計算したみたいに10年で20%も目減りします。そういった資産は、いきおい投資や消費に結び付くでしょう。いや今でもある程度はそうなっているのですよね。土地建物、新規の事業などにそういった資産が流動化していけば、景気が良くなる見込みはありますが、それがどんどん海外に流出するだけなら国内の経済に良い効果あるかは疑問です。国にとってのインフレ
国にとって、インフレは本当に欠かせない要素です。なぜでしょうか?国債を含む公債の残高は700兆円くらいでしたっけ?金額が大きすぎて何のことやらわかりません。国民一人当たり550万円くらいになるそうです。もしこれを今すぐ払え払わなきゃスマキにして東京湾に沈めるぞと言われたら、我が家で生き残るのはうちのかみさんくらいなもんです(嘘ですよ念のため)。でも、10年後に550万円でいいよといわれれば、インフレで20%減ったのと同じになるんです。10年ものの国債の利回りは0.678だそうです。このうちの0.2が棒引きになるわけですね。借りたときの金額で決まってるわけですから。そうするとインフレになればなるほど国の借金は自然に減っていくということになる。アベノミクスの狙いのひとつはここだと思うんですよ。
でも、そうすると国債の魅力がなくなってしまう。たとえば、インフレ率が100%だったら、100万円の国債は実質半分の50万円になっちゃうわけです。2011年のベラルーシなんて、インフレ率53.23%ですよ。日本でそんなことが起きることは考えにくいですけどね。
そこで、日銀が出てきて実質的に日銀がそれを引き受けましょうということになる。日銀はお金を刷って国債を買うことができるわけですからじつは痛くも痒くもない。でも、それをやると経済がめちゃくちゃになるから、国がお金を刷って使うことは禁じられている。で、今回みたいな巧妙なやり方で実質的に日銀が国債を買うのと同じようなことをしている。日銀が買い支えてるんです。でも、それってお金刷ってるのと同じですごく危ないことだと思うんですよね。
変化は人の心を操るワナ
インフレという「変動」要素は、社会を通じて人の心に「変化」という刺激を与えて、その「刺激」に対する「反応」を求める。刺激と反応があれば、人は新しいことを考えてその変化に対応しようとしもがく。もがくから、新しい「何か」が生まれてくるというのはその通りだろうと思うのです。それが人の心です。でも気になるのは、やはり社会の底辺にいてその変化にうまく適応できない若いフリーターや貧困層のことです。すべてがうまく動かないと成功しないインフレターゲット。コントの透明人間みたいに、神の見えちゃってる手を市場に突っ込んだ結果何が起こるのか。歴史的にはうまくいかないと言っている人もたくさんいるようで、そういった人が批判を繰り返していますね。でも僕にはよく分からないことが多いというのが正直なところ。どっちにせよ、操縦は相当に困難で、ガソリンをたっぷり積んだタンカーで流氷を彷徨うようなそんな危なっかしさを感じます。
アベちゃんにそんな操縦できるのでしょうか?それとも、10年後には火の海JAPANが待っているのでしょうか?私にはわかりません。何とかガソリンの火の粉のかからない遠くの流氷の上で成功しないほうにかけたアシカになってしまいたいとも思うけれど、お前とオレとは結局巻き込まれて沈んでいくしかない同舟なアレなわけです。せめて舳先で女性を支えながら、歌でもうたって沈みたいものですが、どうも最近五十肩が再発していてかないそうもありません。
なんだか老人のグチのような記事ですみませんね。実際そうですからね。それから、読んでくれたみなさんの考えも知りたいなぁと思ったり叶わなかったり。いつものことですが。
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平成22年基準消費者物価指数、長期時系列データ(年度平均、総合)より作成 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001033701&cycode=0 |
参考
- セブン&アイ ベースアップで妥結(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130304/k10015935441000.html - アベノミクス(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%82%B9 - 国債金利情報(平成25年3月4日)
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/jgbcm.htm
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