2013年9月19日木曜日

大人の器

天草栖朗という人がこの夏「遺作」というアルバムを出した。10曲納められたアルバムは「ひねもす」の電波みたいな音から始まるから最初は驚くが、天草栖朗を演じている山作戰の他のアルバムよりもはるかに聴きやすい。中でも「大人の器」という松本清張ばりのタイトルの歌が好きだ。

「なぜこんなに苦しいの」から始まって「世間にしかられて」「自分のズルさ」「責めさいなむ」「甘えたい」「満たせない」と心を切り裂く言葉が畳みかけてくる。恋の歌のストーリーで書かれているのに、「大人の器」から日常の期待された「大人」について連想させられて、だんだんつらくなる。恨み節のようにも聞こえる歌なのに、いやだからこそ聴きたくなる凄みを持っている。この曲を書いた人の生き様が、まっすぐに何の飾りもなく、とってつけたポジティブさや希望の飾り付けも排した形で、刃(やいば)を前にしたように語られる。その語りに深く心をえぐられるのだ。何度聞いても涙なくしては聞けない、だれにもかけなかっただろう曲。

ただ、決してネガティブな気持ちになるわけではない。何事も解決しないにせよ、涙を流すことは苦しみを洗い流す魔法である。そして自分自身に直面し、立ち向かうことでもあるのだと言い聞かせて前を向いている。

  • 天草栖朗作品集 『遺作』はメール便なら送料込み2,500円で購入できる。ぜひ聞いてほしい。http://www.yamasakusen.jp/mise/
    1.ひねもす/2.並木道/3.ふたりのいる朝/4.温度/5.ぼくもいない街/6.いなもと/7.ぼくもないている/ 8.だいっきらい/9.大人の器/10.ディナーショウ の10曲
  • 山作戰のウェブサイトはこちら http://www.yamasakusen.jp/
  • SoundCloudでの試聴もできる

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